詩人

お弁当作ってダイゴを送り出し、

洗濯して、調子の悪いジェムの体温確認して、

トフィーのお世話して、

なんだかんだ動いて今ちょっと休憩。

訳あって昔のブログをチェックしてたら急に思い出した。

20年以上も前に働いていた頃の同僚。

あの頃とても仲良かったのに私が退社してから音信不通になってしまった。

当時は携帯持ってなかったし、メールもないしね。

でも今の時代なら繋がるはずなのに、さすが。

いくら探してもあの人は出てこない。

プロフィールが詩人ということと、

彼の作品だけは出てくるんだけど、あとは謎。

彼らしいのだけど、

あの頃のようにアレックスと3人でお酒呑みながら久しぶりに色々議論してみたい。

ほんとに、ね〜。

谷川俊太郎大先生にも認められた詩人になられたようで、

一体どうなってるの?

おーい、田口くんどこにいるんだ〜い?

 

 

王様がチーズになるまえに

田口犬男

疲れたのかいって訊くんだね
目にくまをつけたぼくに
きみが知らないのは無理もない けど
王冠を落とさずに乗せてるのって
けっこうむつかしい技術なんだ
おまけにここは絨毯が柔らかすぎるから
地球に立ってるような気がしなくてね
まるで宮殿ごと
宇宙に吹き飛ばされたような気分さ
重力のことを
懐かしく思い出したりしてね

信じないかもしれないけれど
ぼくには家来がゴマンといるのさ それも
「かしこまりました」って名前の家来なんだ
朝食にオレンジ・ジュースって言うと
「かしこまりました」って答える
お風呂はぬるめがよろしいって言うと
「かしこまりました」って答える
お前の名前は? って聞くとやっぱり
「かしこまりました」って答えるんだ
でもそれが彼らの愛情表現なんだって
大臣は真顔でぼくに言うんだよ

座りごこちのいい椅子は頭に来るね
だからぼくはわざと
姿勢を崩して座ってやるんだ
同じ理屈で人間だって
少しは言い争わなけりゃ でも
僕の父君と母君は
言い争いすぎて別れてしまった
オレンジと燭台と大きな声が
子供のころいつも飛び交っていた
椅子は座りごこちが一番ですと
教育係は諭すようにぼくに言うんだ

野暮だって言うんだろう
夏だっていうのに
こんなに厚ぼったい服を着せられてね
からだがしっとり汗ばんできて
そのうちぼくはチーズにでもなっちまうんだろう
そしたら絵本作家は書くだろう
「チーズになった王様」って題の絵本をね
父君は嘆くかも知れないけれど
ぼくが歴史に名を残すとしたら
きっとそんなところなのさ
「没年不明」と注釈されてね

お后は昨日から口をきいてくれない
でもそれはベーグルに
クリーム・チーズを塗りすぎたからじゃないと思う
コッカー・スパニエルを飼いたいというのを
無下にしたからでもないと思う
たぶん朝 葡萄を食べたとき
彼女の懐かしい舌が思い出したんだ
彼女がこの国の生まれではないことを
彼女の目も耳も口もすべて
この土地のたまものではないことを

コーヒーが大好きなんだ
飲むと胸がどきどきしてね
でもからだのためには一日三杯って
大臣に酸っぱいくらい言われてる
胃を悪くした王様くらい
この世で冴えないものはないから
って言うんだ
だからぼくは胃を悪くするかわり
ほかのところを悪くしようと思ってる
それも思いっきり
手のつけられないくらいにね

冷蔵庫って見たことがないんだよ
ひとびとの家には必ずあるって聞いたから
きっとそれは素敵なものなんだろうね
使い勝手は知らないけれど
なんでもそれは
涼しいところと聞いている
それならぼくは冷蔵庫の中で眠りたいな
家来も大臣もお后も
誰もいないところで
ぼくはただぐっすり眠っていたいんだ
そこは海の近くで
ときどき白いカモメが啼くのさ
ぼくの国には一匹もいないカモメがね

夜更けまでつきあってくれて
ありがとう
もうきみだって眠いんだろう
ぼくのくまが
きみにうつったみたいじゃないか
きみを家来に送らせて
ぼくもようやく眠るとするよ
このマカロニみたいなベッドのうえで
コオロギみたいな寝息を立てて
日がハシゴを掛けても届かないほど
高く昇ってしまわぬうちに

Before A King Becomes Cheese.